エアグルメ
おいしい料理を楽しみたいとき、私は街へでかける。財布は持たなくて大丈夫。つまり、手ぶらで大丈夫。手ぶらでおでかけする開放感を一度知ると、癖になる。荷物を持って出かけると、肩がこるような気がしてくる。
外食はお金がかかり、頻繁にできるものではない。でも、おいしいものを食べて幸せな気分になりたいと願うことは、頻繁にあったりする。まずは、おでかけだ。
香りは大切
料理を味わうとき、香りが果たす役割は大きい。
風邪を引いて鼻が詰まったとき、何を食べても味がいまいちだと感じる。だがそれは、体調が悪いから味覚が麻痺しているだけなのかもしれない。そこで、私は鼻をつまんで料理を食べてみた。その結果、風邪の時と同じように、いまいちな味に感じた。
香りがないと、3割くらい味が落ちた気がする。ということは、料理のおいしさの3割は香りが占めているといえるのだはないだろうか。
香りを食べに行く
ラーメン屋さんの前をゆっくりと通る。なるべく時間をかけて。周りの空気をすべて漏らさないように息を吸う。目を閉じる。そして、料理を食べるときのように、モグモグと口を動かす。モグモグは、食べてる気分を盛り上げるためのスイッチだ。周りの目があるときは、心の中でモグモグしよう。
さて、私の頭の中にはスープを薄くまとった麺を口に含んだ時を想像。現実の風景は見えない。今、私はラーメンを食べているのだ。チャーシュー、別皿の餃子は想像力で補充しよう。量はお好みで。トッピングでニンニクを入れても良いかもしれない
うなぎ屋さんの前を通り過ぎる。うなぎ屋さんは、客引きの意図もあるのか、ウナギとタレの香りをあたりに派手に漂わせてくれていることが多い。意識して通り過ぎるペースを緩めなくとも、香りは私の頭を包み込む。さあ、モグモグ。
ウナギの蒲焼きに振りかける山椒の量はどうしよう。ふりかけ過ぎる、ウナギ本来の味を殺してしまうかもしれない。あくまでも、ウナギの味の引き立て役としての量を守りつつ、効果的にふりかけなくては。などと想像の中で心配する。
もちろん、最初からスムーズに想像できたわけではない。なれないうちは、思い浮かべるのに時間がかかり、店の前に不自然に立ち止まってしまい、店の人から声をかけられたこともある。私は香りだけをいただきに来ているわけだから、早々に退散する。
無料で食べ放題
香りだけで料理の3割分は楽しめるのだ。たとえば、600円のラーメンを食べたと思おう。3割分フルに味わえたら600×0.3で180円分払った分の価値がある。しかし、現実には一円もお金を払っていないのだ。タダなのだ。
想像力次第では、600円のラーメンを、1000円の餃子セットにグレードアップできる。チャーハンをつけることだってできる。ラーメンでたとえてみたが、もっと高価な料理でも可能だ。焼き肉屋の前で高級国産牛を食べる想像。
注意しないといけないのは、なるべく単品の料理を出す店を選ぶこと。ラーメン、うどん、カレー、焼き肉など。たとえば、中華料理店を選ぶと、エビチリとあんかけ焼きそばの香りをかぎ分け、想像するのは難易度が高い。香りが混じらない、限られた種類の料理の香りから始めるのが無難だ。たくさんの獣類の料理を味わった方が、リッチな気分になれる気がするが、想像力には限りがある。無理をしない範囲でトライだ。
財布からお金を出すことなく、いくらでも好きな料理を味わう。場を重ねれば重ねるたびに、想像力が鍛えられて豪華グルメを味わえるのだ。想像の中で。